毎回ゲストを迎えて「プリ帳」から日本のガールズカルチャー史をひも解く連載企画“プリ帳ヒストリー”。
“盛り”を研究する久保友香先生。誕生以来若い子たちを魅了し、その青春を写し出してきたプリントシール機シェアNo.1のフリュー株式会社。そして長年若者の流行を見続けてきたSHIBUYA109の視点をかけ合わせることで、各世代のプリ帳を考察していきます。
第9回目の今回は、これまでを振り返り、お呼びした1980年〜1994年生まれの8名のゲストのプリ帳の共通点や時代を経て変化したことを深掘りします。
東京大学大学院にてシンデレラテクノロジーを研究
「ガールズトレンド研究所」で所長を務める
「SHIBUYA109lab.」で所長を務める
こうして見ると、無印良品の商品は世代を超えて使われていますね!
カスタマイズ性がすごくあるので、プリ帳で個性を表したい女子高生にハマったのだと思います。
実際に、無印良品の人は意識していたのか気になりますね。
——今回は特別に、無印良品の店舗・商品を展開する株式会社良品計画のPR担当・川尻さんにお話を伺いました。
今回の記事を拝見いたしまして、既に販売終了の商品などもお見受けし、大変懐かしく感じました。
またプリ帳として、こんなにも愛用していただいていたことに驚きました。
無印良品の商品は、使い方を限定せずにご使用いただける方が
ご自分のお好きな使い方やカスタマイズなど行っていただける、自由度のあるものづくりとしております。もちろん年齢を問いません。
皆様にご自分なりの使い方をしていただけましたら、大変うれしく思います。
株式会社良品計画様、コメントありがとうございました!
世代を超えて愛用されている理由は、シンプルなデザインで主役であるプリの邪魔をしないこと、そしてアレンジを加えやすく、自分だけのプリ帳を作ることができる点だと考えられます。
プリ帳にプリを敷き詰めて貼っている方が多かったですね。
私(84年生まれ)の少し下の世代からは「プリ帳はぎっしりがカッコイイ」という風潮がありました。
雑誌「egg」にプリを詰めたページがあったり写真のコラージュがあったと思うのですが、もしかすると、その影響があるのかもしれません。
確かに!当時、卒業アルバムなどでもeggに似せたコラージュをよく見かけました(笑)。
eggが一般の人にも真似しやすいけれど、お洒落でプロのような仕上がりになるデザインを提示していたということですね。
余白を残しつつお洒落にするのは、難しいですもんね!
友達にプリの「落書きのプロ」がいたと話す方も多かったのですが、現在に置き換えると、インスタの「加工のプロ」。どの時代にもプロがいて、努力が評価されるいい世界だなと思いました。
ツールは変わるけれど、その中でお洒落にみせるスキルやものづくり能力が評価されるのは、日本ならではの文化だと思います。
匠の文化!
その世代によって何を重視しているのかも、変化していますよね。
そう!私の時代は、落書きがないから「誰と写っているのか」が重要でした。可愛くて有名な子と撮ったら売れる!(欲しがられる)みたいな。その後は「落書きのクオリティ」、そして今は「いかに盛れるか」が重視されています。
92年生まれの山﨑さん(第7回ゲスト)からプリ帳が作られなくなっていますね。
これはデジタル化が大きく影響しているのでしょうか?
デジタル化も関係していると思うのですがもう一つ大きな理由が…とっても後悔していることがあるのです。
後悔ですか!?
プリを「切らないでOK」な仕様に変更したことでプリ帳文化を廃らせてしまったと思っていて…。
2006年に発売した「姫と小悪魔」というプリ機で、プリを細かく何カ所も切るのは面倒だなと思い、一回ハサミを入れれば2人分に分けられるようにしたんです。(※図B参照) そうしたら、そのまま持ち歩く人が増えて、プリを交換したり貼る人が減ってしまいました…。
この頃、女子高生はプリを長財布にしまうようになり、プリが長財布ブームを起こしたと言われていますよね。
そのあと5年くらいかけて、プリが貼られなくなってしまったので、2011年の「LADY BY TOKYO」から、プリ以外の部分も含めシール全体でデザイン性あるものに変えていきました。(※図C参照)
なるほど!そういう経緯があったのですね。
(写真左:昔の落書きイメージを再現 / 写真右:今の落書きイメージ)
プリの落書きで使う「ペン」「スタンプ」はどう変化していますか?
落書きの変化は著しいです。例えば、昔のプリはコロコロスタンプを何個も重ねてさらにスタンプを押して、その上に文字を書いて…と賑やかで隙間がないのがイケてる印象でした。今はスタンプは耳や鼻など顔まわりの変身系か、ハートなどを1つか2つ、それにペンで一言だけ書くという全体的にシンプルな傾向があります。
確かに、今コロコロスタンプは見ないですね!
落書き用のペン自体も、ふちがキラキラしていたり多色使いなど派手なものが人気で、種類も豊富でしたが、今は飾りも少ないペンが人気です。
最近では、ティーン向け雑誌ですらシンプルなデザインが多い印象です。その頃の若者がどういうものに目が慣れているか、というのが大きく関係している気がします。
スタンプは、やはりハートがずっと人気ですか?
そうですね。ただ、形がどんどん変化していて以前は、キラキラしていたり手書き風のぷにっとしたハートが人気でした。(画像左) それから徐々にシンプルなハートに人気が変化してきました。(画像右) 形も細長いものが主流でしたが、最近は縮んできたように思います。
「盛る」についても黒く写りたいか白く写りたいかなど時代によって、みんなのこだわりが違いますね。
プリの写りの波は過去に大きく4回あり、すべて世の中の動きと連動しています。
雑誌が流行を作ると言われていましたが、フリューさんが新機種を考える際は、新たな流行を作ろうとしている、あるいは時代に合わせようとしている、どちらが近しいでしょうか?
プリ機を作るには1年ほどかかります。時代に合わせようとすると遅いので、女の子をよく見て流行を先読みして、提案できるようにしていますね。
それぞれのインタビューを振り返ると、私はプチプラに対する考え方の移り変わりが興味深いと思いました。
86年生まれの高尾さん(第4回ゲスト)は「プチプラの化粧品を使うのが恥ずかしい、ダサいという風潮があった」と言っていましたけど、90年生まれのさえりさん(第6回ゲスト)以降はむしろプチプラを推していて。
山﨑さん(第7回ゲスト)も化粧品はCANMAKEなどを使っていたと言っていましたもんね!
この短い期間に、何があったのでしょうか。
おそらく2007年からの読モブーム、そしてブログの流行が影響していると思います。ブログで誰もが情報発信できるようになると、皆がお手本を求めるようになって、手の届かないかわいい子よりも、手の届きそうなかわいい子が人気に。
高いものを使うより、安いものを使いこなしてかわいくするのがいいという時代へ移っていったのです。
109ブランドは、どの世代にとっても憧れの存在でしたね。
これまでゲストに来てくれた方たちの学生時代は、まだファストファッションが流行する前なので、好きなブランドでカテゴライズ化されていた時代、ブランド世代なのかなと思います。
ただ、例えば好きなブランドでも、82年生まれの奈々恵さん(第2回ゲスト)と92年生まれの山﨑さん(第7回ゲスト)のいう「CECIL McBEE」では、同じブランドでも時代が違うので少し系統が違いますよね?
「CECIL McBEE」は、SHIBUYA109の2000年〜2009年の売り上げトップで、確かに時代に合わせて系統が変わっていますね。そのほかに今でも人気なブランドに「one way」がありますが、私が学生の頃の「one way」はサーフ系のイメージで、今とは全然雰囲気が違います。
実際にブランド側は、時代の変化に合わせてどう意識していたのでしょう?
「CECIL McBEE」のプレスの方に話を伺ったところ、昔は「セクシー」を意識していたそうなのですが、ギャルが以前より減っているということもあり、今は「色っぽくてフェミニン」要素をプラスさせているとのことです。
時代に合わせて系統を変えるブランドが、長く人気を継続できるのかもしれませんね。
プリ帳は、いまは全然作られていないのでしょうか?
そうですね。残念ながら、作られている方はかなり少ないと思っています。プリを楽しんでもらうには絶対あったほうがいいと思っているのでフリューでは2017年3月からプリを名刺/カードサイズに印刷するポケットプリを採用してアルバムにまとめてもらいやすくしています。
ケースもいろいろ出されているのですね!
ポケットプリを入れるカードケースは、キャンペーン時にゲームセンターで配布していますし、ダイソーで購入することもできます。認知はされてきているのですが、まだまだ浸透していないのが現状。
第1回の時もお伝えしましたが、騙されたと思ってプリをカードケースに入れて保管してみてほしいです。
将来、きっと素晴らしい宝物になると思います!
この企画のゲストでプリ帳を作ってきた人たちは皆「プリ帳を作った方がいい」と最後に言っていましたよね。
デジタルデータのアルバムでは不要になったらすぐ削除できるけれど、プリ帳ではできません。それに、必ずしも良い思い出だけじゃないのがいいという声もありましたね。
時間をかけて出来上がった作品でもありますから。
もちろん画像データでシェアしたり見せ合うのもいいのですが、シールやプリ帳というリアルな物を囲んでキャッキャ言いながら見るのがやっぱり楽しいですよね。
カードケースという新しい形のプリ帳として、まとまったきれいな思い出品になること、さらには持ち歩いて見せ合う文化が再燃することを願っています!
取材・文/高尾ひとみ
2005年入社以来、プリントシール機の商品企画に携わる。現在はマネージメントも行う。
趣味は、美味しいもの、漫画、カラオケ、ホットヨガ、ダイビング、脱出ゲーム。なんでも記録するログ癖あり。
今年の目標は、社内の仕組みを整える、社外の方とたくさんお話する、家をキレイに保つこと!
東京大学大学院博士課程修了(環境学博士)。東京大学先端科学技術研究センター特任助教、東京工科大学メディア学部講師などを経て、現職。
研究テーマは、日本の女の子の「盛り」の文化と、それを支援する「シンデレラテクノロジー」。好きなものは、ビール、羊羹、芸能ニュース。
今年の目標は、昨年に引き続き、昭和初期を知るおばあちゃんたちとたくさん会うこと。
総合マーケティング会社を経て、SHIBUYA109のマーケティング担当となる。
毎月200人のaround20(15歳〜24歳の男女)と接する毎日を過ごしている。
好きなものは、うどん、カラオケ、ドライブ。
今年の目標はSHIBUYA109 lab.所長として若者に関する講演に講師として登壇すること。そして「大人っぽさ」と「透明感」を兼ね備えた女性になること。
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